多くの財産を抱えている方は、現在の生活に不安はないものの、自分の死後に残された遺産について不安を感じているのではないでしょうか。
所持している財産が現金であっても株券であっても、遺産相続の際には多額の相続税が課せられます。
これまでも相続税は高額というイメージがありましたが、平成27年1月1日の法改正により、相続税の負担はさらに大きいものとなりました。
そこでおすすめしたいのが、「不動産を利用した相続税対策」です。
もし現金・株・金や貴金属といったもので財産を多く抱えているのであれば、それを不動産に分散することで将来的な相続税を大幅に節税することが可能です。
とは言え、不動産にもそれ相応の相続税はかかりますから、「不動産によってどの程度節税できるのか」「不動産にはどのぐらいの相続税がかかるのか」はしっかり覚えておきたいですよね。
今回は、今から備えて安心!不動産でできる相続税対策のすべてについてまとめました。
不動産相続税の種類
まずは知っておきたい相続税の基本と、不動産にかかる相続税の種類についてみていきましょう。
相続税の基本的な考え方
相続税は、「故人が遺した財産すべて」から税控除分を差し引き、更にそれを法定相続人で分割したのち、それぞれの相続人がもつ遺産の額に税率をかけて算出されます。
遺産としてカウントされるものや、相続税の詳しい計算方法については以下の通りです。
「プラスとなる遺産」
・現金、預貯金、家財、有価証券、投資信託、配当金、土地、家屋、自動車、駐車場、借地権、貸付金、貴金属、著作権等
「マイナスとなる遺産」
・借金全般、葬儀費用、未払い金等
「課税対象となる遺産」
プラスとなる遺産からマイナスとなる遺産を引き、さらに基礎控除を除く額が課税対象となります。
「相続税の基礎控除」
相続税の基礎控除は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」となっており、遺産総額からこの控除分を引くことができます。
「相続税の計算方法」
1.相続税を割り出すために、まずは遺産総額から控除分とマイナスとなる遺産額をひいてください。
2.次に、法定相続人が法定相続分でそれぞれ相続したと仮定して、各人の相続額を計算します。
3.最後に、相続する金額に相続税率をかけ、さらに控除分をマイナスすると「相続税額」が解ります。
我が家の不動産相続税の課税資産はどのぐらい?
ここからは、不動産の相続税について考えていきましょう。
不動産の価値は現金とは異なり、「購入した金額=不動産の価値」にはなりません。ここに不動産による節税のヒントが隠されています。
不動産はどうやってその価値を割り出し、どのように遺産としてカウントされるのか、土地と建物に分けて解説していきます。
「土地の場合」
遺産となる土地がどの程度の価値があるのか知りたいとき、まずはその土地の地目(農地、宅地、山林)ごとに評価されます。
その次に、路線価が決められている土地であれば路線価から価値を割り出し、路線価が決められていない土地の場合には、その土地の固定資産税評価額を元に土地を評価することなります。
土地の利用がアパート等借家である場合には、土地には借地権割合と借家権割合が課せられ、固定資産税評価額からさらに2割減となるのが一般的です。
「建物の場合」
建物の場合、それが自宅なのか投資物件なのかによって評価額が異なります。
・住宅・・・課税評価額は固定資産税評価額と同一です。固定資産税評価額は、もとより標準建築費用の6~7割となっています。
・投資用賃貸物件・・・賃貸物件を所持している場合、その建物の権利は貸している側だけではなく借りている側にもあるということから、固定資産税評価額よりさらに評価は下がります。
借家人の持ち分は30%ですので、その課税評価額は「固定資産税評価額×(1-30%)」で割り出されます。
もし8000万円で賃貸物件を建てたとしても、固定資産税評価額はその7割の5600万円、さらに借家権割合を30%とするとその評価額は3920万円まで下がります。
現金で8000万円を遺産として残すとそのまま相続税が課せられますが、賃貸物件に投資することで課税対象となる遺産は半分以下まで下げることができるのです。
相続税はどのくらいかかるか
ここからは詳しい計算を交え、実際に相続税はどのくらいかかるのかシミュレートしていきましょう。
<相続税率と税控除額一覧表>
相続税率と控除額一覧表 | ||
相続人一人当たりの相続額 | 税率 | 控除額 |
1000万円以下 | 10% | なし |
1000万円超3000万円以下 | 15% | 50万円 |
3000万円超5000万円以下 | 20% | 200万円 |
5000万円超1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超2億円以下 | 40% | 1700万円 |
2億円超3億円以下 | 45% | 2700万円 |
3億円超6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
実際に相続税を計算してみよう!
早速、実際に相続税の計算をしてみましょう。
・Aさん
購入時土地価格3000万円、建物建設費3000万円の住宅と現金6000万円が遺産
相続人は配偶者と子供二人
3000万円で購入した土地の評価額は最終的に2600万円、住宅の固定資産税評価額は建設費の60%の1800万円となりました。
現金6000万円とこれらを合わせ、1億400万円が遺産総額です。ここから基礎控除「3000万円-(600×3)」をひくと、5600万円が課税遺産総額となります。
法定相続人は配偶者と子供二人、配偶者は遺産の半分を、子供二人は更にその半分を遺産として受け取りました。
・配偶者相続額→2800万円
・子供一人あたりの相続額→1400万円
それぞれに<相続税率と税控除額一覧表>にある税率をかけ、さらに控除額を引くと・・・
・配偶者相続税額→2800万円×15%-50万円=370万円
・子一人当たりの相続税額→1400万円×10%=140万円
となります。
ただし、配偶者の相続税には特別控除があり、相続財産が1億6000万円までは非課税ですので、この場合配偶者の相続税は0円です。
・Bさん
賃貸投資物件を複数所有
それぞれ取得金額は土地:建物で①2000万:6000万、②3000万:4000万、現金としては1億円が遺産
相続人は配偶者と子供1人
まずは2つの賃貸投資物件の評価額を割り出してみましょう。
①土地2000万円→固定資産税評価額1600万円、賃貸物件が建つ土地の為さらに2割減で1280万円が評価額
建物6000万円→固定資産税評価額4200万円、借家権割合30%を引き2940万円が評価額
②土地3000万円→固定資産税評価額2800万円、賃貸物件が建つ土地の為さらに2割減で2240万円が評価額
建物4000万円→固定資産税評価額2800万円、借家権割合30%を引き1960万円が評価額
賃貸投資物件2軒分を合わせ、評価額は8420万円でした。これに現金の1億円を合わせ、1億8420万円が遺産相続となります。
更に基礎控除をマイナスして課税遺産総額を計算しましょう。
・1億8420万円-3000万円-(600万円×2)=1億4220万円が課税遺産総額
Bさんの法定相続人は配偶者と子一人ずつですので、半分ずつ遺産を分け、一人当たりの課税相続額は7110万円となりました。
・子の相続税負担額→7110万円×30%-700万円=1433万円
この場合も配偶者は特別控除の範囲内であるため、相続税の負担は0円となります。
・Cさん
1億円で購入した土地と現金3000万円が遺産
相続人は配偶者のみ
3例目、Cさんは1億円で購入した更地と現金3000万円が遺産です。
土地の路線価は、購入価格の80%である8000万円でした。これに現金3000万円を足すと1億1000万円が課税遺産総額となります。
しかし、相続人は配偶者のみの為全額控除となり相続税は0円でした。
相続税対策
ここからは、不動産だけではなく様々な方向からアプローチする相続税対策を詳しく解説していきます。
相続税対策は全方位から行い、残される家族に少しでも多くの遺産を残せるようにしておきましょう。
養子による対策
相続税の基礎控除額を増やすために、「養子を持つ」という選択肢もあります。
法定相続人として認められる養子が1人増えれば、基礎控除額は600万円増額します。もし3人を養子とすることができれば、1800万円基礎控除が増額し、大きな節税効果を得ることができるのです。
もちろん、全く知らない人を養子にするのでは「殆ど面識のない人にも遺産が行く」ことになってしまいますから、子の配偶者や姪っ子・甥っ子など、実際に遺産を残したい人を対象に養子になってもらうのが望ましいでしょう。
しかし養子による相続税対策で気を付けておきたい点もあります。それは遺産相続争いが起きやすくなってしまうということです。
法定相続人のすべてが「養子」について知っていなければ、後々トラブルの元となるのは明白です。養子を設ける際には事前に家族全員に承諾を得ること、そして法的に有効な遺言書を作成しておく必要があるでしょう。
生前贈与
生前贈与であらかじめ遺産を分配しておくのも有効な相続税対策となります。
一般的に贈与税は110万円以上の贈与から発生しますが、子供と配偶者の場合には、一定の要件を満たすことで多額の資産を「生前贈与」として非課税で分配することができるのです。
「子・孫への生前贈与」
親から子供へ生前贈与を行う場合、4つの特例が存在しています。それぞれ要件や非課税となる額が異なりますので詳しくみていきましょう。
・住宅取得資金贈与の特例
子又は孫の住宅取得のための資金として、最大3000万円までの贈与を非課税とする特例です。
・教育資金贈与の特例
30歳未満の子又は孫へ教育資金として1500万円までの贈与を非課税とする特例です。
・結婚子育て資金贈与の特例
平成31年3月31日まで、期間限定で受けられる特例措置です。子又は孫に対し、子育て資金として1000万円、結婚資金として300万円までの贈与を非課税とします。
・相続時精算課税の特例
60歳以上の親または祖父母が、20歳以上の子又は孫に生前贈与する場合、2500万円までを非課税とする特例です。
この時贈与するものは現金だけではなく不動産も該当しますが、2500万円を超えた部分には一律で20%が贈与税として課税されます。
「配偶者への生前贈与」
夫婦間の贈与では、20年以上婚姻関係がある夫婦に限り、贈与する不動産の価値が2000万円までの住居であれば非課税にするという特例があります。
しかしこの特例は同じ相手に1度しか使えず、しかも贈与を受けた配偶者はその住宅に住み続けなければいけないという決まりがあり、節税としてはあまり現実味のないものといえるでしょう。
運用による節税
現在の資産を上手に運用し、節税することも可能です。
まずは土地の運用についてですが、冒頭から述べている通り、空いている土地は「賃貸物件」を建てることで大きな節税効果を発揮します。
もしただの更地としている土地があるのであれば、今すぐ運用してみましょう。
「生命保険による運用」
古くから相続税対策として使われている手法ですが、生命保険による運用もおすすめです。
死亡時に支払われる生命保険金は、一定の要件を満たせば「法定相続人の数×500万円」までが控除され、非課税となります。
この控除を受けるためには、被相続人が自分で保険料を払っていた生命保険でなければいけません。
負債による節税
負債による節税も効果的です。
相続時、負債額はそのままその他のプラスとなる財産から引くことができます。
例えば課税遺産総額が1億円であったとき、3000万円の負債があれば7000万円が相続税の対象となります。
これを土地や投資物件の運用と合わせることで、さらなる節税が可能です。負債額はあまり大きくしすぎるとローンが返せなくなってしまう恐れもありますから、税やローンの専門家に相談しながら投資物件の運用をしていくといいでしょう。
小規模宅地の特例を活用
小規模宅地の特例とは、一定の要件を満たした場合、相続した土地・宅地の評価額が80%まで減少するという特例です。
「小規模宅地の特例の要件」
小規模宅地の特例は、その土地をどのように活用していたかによって減額割合が異なります。
居住用の宅地
・配偶者が相続によって取得した居住用の住居の場合、330㎡までの評価額が実際の評価額の20%になる。
・被相続人と同居していた親族が引き続き住宅に居住している場合、330㎡までの評価額が実際の評価額の20%になる。
・被相続人と生計を一にしていた親族が、相続開始前から申告期限まで自宅として居住している場合、330㎡までの評価額が実際の評価額の20%になる。
事業用用地
・被相続人が行っていた事業を引き続き営んでいる場合、事業用の用地400㎡までの評価額が実際の評価額の20%になる。
・被相続人と生計を一にしていた親族が、相続開始前から申告期間まで事業用として使用している場合、400㎡までの評価額が実際の評価額の20%になる。
不動産貸付事業用の宅地
・不動産貸付事業を申告期限まで続けて営んでいるとき、200㎡まで評価額は50%減額される。
・被相続人と生計を一にしていた親族が、被相続人の死亡前から申告期限まで不動産貸付事業として利用しているとき、200㎡まで評価額は50%減額される。
このように、それぞれの要件を満たしていれば住宅・事業用地・不動産貸付事業の宅地それぞれの評価額が50~80%減額されます。
相続税対策として活用するのであれば、相続させたい方と一緒に居住したり事業を行う必要がありますが、大幅に節税が可能です。
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まとめ
資産を多く持つ人とその家族にとって、将来的に負担する必要がある相続税は少し恐ろしいものですよね。
相続税は一度に支払う必要があるため、現金がなければ逆に相続した人が損をしてしまうこともあります。
自分の財産を確実に家族に残すため、相続税対策はとても重要です。正しい知識で、不動産を活用した間違いのない節税を行いましょう!
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